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コラム

【令和8年4月】「年収の壁」大改正!「実績」から「契約」重視へ

令和8年4月から、健康保険の「被扶養者認定(年収の壁)」のルールが大きく変わります。

これまで従業員を悩ませてきた「働き控え」を解消しうるポジティブな改正ですが、判定の根拠が「給与実績」から「労働契約(雇用契約書)」重視に移るため、企業の管理責任はこれまで以上に重くなります。

本記事では、社労士の視点から、改正のポイントと実務上の注意点を分かりやすく解説します。

1.そもそも「被扶養者認定(年収の壁)」とは?

健康保険では、会社員(被保険者)に扶養されている家族を「被扶養者」として、保険料負担なく加入させることができます。この認定を受けるには、以下の収入基準を満たす必要があります。その基準額が「年収の壁」と呼ばれています。

[参考]年収の壁とは?

https://www.jinji-roumu-consul.com/column/nenshunokabe_guide_2025

2.改正のポイント:判定の「ものさし」が変わります

判定基準が従来の「実態ベース」から「労働契約等の記載内容ベース」へ移行します。

 

最大のメリットは、「契約(基本給や手当)」が基準内であれば、突発的な残業で収入が増えても、原則として扶養を維持できるようになる点です。

3.通勤手当を「契約年収」に正しく含める

実務担当者が最も注意すべきは「通勤手当」の扱いです所得税では非課税枠がありますが、社会保険の被扶養者認定では「全額収入」として合算します。

新ルールでは、契約書から「年収見込み」を算出する必要があるため、曖昧な記載は避けなければなりません。

労働条件通知書への具体的な記載例

  • 月額固定: 「通勤手当:月額 10,000円」            

  • 👉年間12万円と容易に算出でき、審査がスムーズです。

  • 実費(上限あり): 「通勤手当:実費支給(上限 月15,000円)」  

  • 👉原則、上限額で算定されます。

  • 実費(日額設定): 「通勤手当:日額 600円(月20日勤務見込)」 

  • 👉算定根拠(日数)があるため、見込み額が確定できます。

【注意】「実費」のみの記載は要注意

単に「実費支給」とだけ記載すると、保険者が年収を計算できず、差し戻される可能性があります。上限額や目安の日数を書き添える運用を検討しましょう。

4.新設「150万円の壁」と年齢による基準

今回の改正では、対象者の年齢(その年の12月31日時点)により基準額が3段階に整理されます。

                                                        

5.「事業主の証明書」は「連続2回」まで

労働契約上は基準内であっても、臨時収入(残業等)により実際の年収が基準額を超過した場合、被扶養者認定(定期確認)時に「事業主の証明書」の提出が必要となります。この証明書により「一時的な収入変動である(契約変更ではない)」ことを証明することで、労働契約ベースでの判定が維持されます。

[参考]事業主の証明書のフォーマット

https://www.mhlw.go.jp/content/001159348.pdf

「連続2回」ルールの運用

  • 救済は2回まで: 同一の被扶養者に対し、この救済措置が使えるのは「連続2回」までです。

  • 3回連続は不可: 3回連続で基準額を超過すると、理由が残業であっても「常態的に年収が高い」とみなされ、扶養から外れることとなります。

【管理のアドバイス】

「証明書を出せばずっと大丈夫」という誤解がトラブルを招きます。会社側で「誰に何回出したか」を記録する「発行台帳」を整備し、3回目になりそうな従業員には早めに注意喚起を行うのが、実務上の適切な対応です。

6.社労士が警告する「3つの実務リスク」

  1. 通勤手当の計算漏れ: 基本給だけで判断し、通勤手当を足すと基準を超えていた場合、扶養から外れる恐れがあります。

  2. 実態と契約の乖離: 「契約は週20時間だが、実態は常に週30時間」といった状態は、虚偽記載とみなされるリスクがあります。

  3. 遡及取消のリスク: 認定が過去に遡って取り消されると、従業員は過去の医療費(7〜9割)の返還を求められます。これは会社への損害賠償請求に発展しかねません。

7.ケーススタディ:残業が発生しても扶養を外れない理由

実際の計算例で、新旧ルールの違いを見てみましょう。

パートAさんの場合(時給1,200円、週20時間勤務)

① 労働契約上の年収見込み

契約内容:時給1,200円 × 20時間 × 52週 = 124.8万円 判定結果:扶養要件を満たす(基準額130万円未満)

② 実際の収入(繁忙期などで残業が発生した場合)

  • 契約年収:124.8万円

  • 残業代:15.2万円

  • 実績合計:140万円

③ 判定結果:扶養継続 OK!

現行制度では、実績が130万円を超えると扶養から外れるリスクがありましたが、新制度では労働契約に時間外労働の金額規定がなければ、残業代は「臨時収入」として除外されます。契約時点で基準内であれば、後から残業で収入が増えても扶養から外れません。

8.実務上の「よくある質問」Q&A

現場の担当者が頭を悩ませがちなポイントを整理しました。

Q1. 残業が常態化している場合はどう判定しますか?

A. 契約更新のタイミングで、実態に合わせた契約変更が必要です。 当初の契約段階で予見できなかった一時的な増加であれば「証明書」で対応可能ですが、翌年度以降も常態化が見込まれる場合は、実態に即して契約を見直し(社会保険加入)を検討する必要があります。

Q2. 契約を変えなければ、ずっと扶養でいられる「抜け穴」になりませんか?

A. なりません。 「事業主の証明書」を使って基準額を超過できるのは「連続2回」までという厳格な回数制限があります。また、実態と著しく乖離した契約書を意図的に作成することは「虚偽記載」とみなされ、数年分に遡って扶養を外される深刻なリスクがあります。

Q3. 賞与の金額が確定していない場合は?

A. 合理的な根拠を用いて算出します。 労働条件通知書に「年2回、各〇〇円(予定)」等の記載があればその予定額を用います。金額が不明確な場合は、前年の支給実績などを根拠に算出します。

9.トラブル予防のための注意点

人事担当者が陥りやすいミスとその対策をまとめました。

ケース1:通勤手当の計算漏れ

  • 状況: 契約上の給与は129万円だが、通勤手当(月1万円)を含めると141万円になり、基準額を超過していた。

  • リスク: 当初から認定要件を満たしていないため、遡及して扶養から外れ、医療費の返還請求をされる可能性があります。

  • 対策: 「扶養申請書(社内用)」に基本給と通勤手当の合算欄を設け、申請段階で合計額を可視化させましょう。

ケース2:労働条件通知書の記載不備

  • 状況: 交通費を「実費」とだけ記載したため、健保から「年収見込みが計算できない」と差し戻された。

  • 対策: 全社のフォーマットを見直し、「上限〇〇円」または「目安〇〇円」といった、第三者が計算可能な数値を記載するルールを徹底してください。

10.従業員への説明方法(そのまま使えるテンプレート)

実務で活用できるテンプレートです。ご活用ください。

 

11.令和8年4月からの被扶養者認定フローチャート

      • 被扶養者認定の判断には、こちらのフローチャートをご活用ください。
    •  

まとめ:正確な「労働契約」が最大の防御です

令和8年4月からの新制度は、人員確保のチャンスである一方、「会社が作成する書類」の精度が厳しく問われます。

  • ・通勤手当を算定可能な形式で記載する

  • ・「証明書発行台帳」を作成し、回数を管理する

  • ・契約内容と実際の働き方にズレがないか点検する

これらを進めることが、会社と従業員をトラブルから守ることに繋がります。不安な点があれば、ぜひ当事務所にご相談ください。

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※本記事は2026年3月時点の情報をもとに作成しています。

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